3月28日(土)、桜坂劇場ホールBにて地域発信型映画『物置のピアノ』の上映に先駆け、主演の芳根京子さん、監督の似内千晶さんが舞台挨拶に登壇しました。
同作品は、東日本大震災から1年を経過した夏の福島県伊達郡桑折町を舞台に、高校3年生の宮本春香と東京の大学に通う姉・秋葉やその家族を描いた作品です。春香にとって安らぎである物置にあるピアノを弾くことや姉との葛藤、桃農家を営む祖父の風評被害による苦しみ、浪江町から避難してきた少年との出会いなど、福島の日常を描いた物語となっています。
「初めての主演はどういう気持ちでしたか?」と尋ねられた主演の芳根さんは「『物置のピアノ』は、すべてが初めてのことで、無我夢中だった。福島県の桑折町という素敵な場所で撮影ができ、2年前に撮影した映画が今こうして皆さんに見ていただける機会があるということを本当に嬉しく思います」と感激した様子でした。今回の作品が初メガホンとなった似内監督は「故郷を想う人たちの気持ちのおかげで製作することができました。その気持ちを壊さないように日々奮闘してきたが、出来上がった作品を観ると、私自身が支えられていたことに気づかされた。初監督の作品がこの作品で本当に幸せに思う」と熱い気持ちを語ると、満席に近い観客からの拍手がホールいっぱいに響きました。続けて「桑折町という所は、風向きの関係で放射能の線量が高い地域で、毎日至る所で除染作業を行い、農家の方々が農作物の線量を測っている。元々祭りや賑やかな事が大好きな方たちが、震災後の深刻なニュースよって、笑顔が減ってしまっています。こんな時だからこそ、自分たちの風景や人の素顔を、映画に残すことによって、団結して前に進みたいと地元の方々に言われた。沖縄で上映されるということは地元の方々にも喜ばれています」と、映画製作についての心境と、制作に携わった福島の人々の思いを語りました。
福島の桑折町の印象を尋ねられた芳根さんは「すごく温かい町。いつも撮影の時に桃を切ってくださったり、トマトを差し入れていただいたり」とコメント。また、撮影時のピアノの演奏について「オーディションの時に突然、ピアノを弾く審査があることを知り動揺したが、宮本春香という役と自分自身を重ね、監督に見ていただいた」と、役に入りきれたことに嬉しそうな様子。似内監督が「芳根さんは桑折町の家庭にホームステイして、みんなの子どもとして可愛がってもらっていた」と撮影時の様子を語ると、芳根さんも「生まれも育ちも東京なので、故郷というものがなかった。凄く素敵な場所ができたな、と思う」と心境を語りました。
最後に、「家族にある辛い過去の記憶、姉妹の葛藤、原発の風評被害など、さまざまな要素が含まれています。この映画はドラマティックな部分は一つもなく、今もなお福島で生きている人々の姿であり、一人の少女の日常を描いている。原発のニュースやドキュメンタリーを観ることが出来ない福島の今を生きる人々の姿を、この映画を通してみていただきたい。また皆さんの故郷を思い起していただければ、幸いです」と似内監督は締め、舞台挨拶は幕を閉じました。